筋肉注射って、皮膚をつまんで打っていいんだよね?
筋肉注射後のトラブルを起こさせないために、正しい手技で行うことは重要です。
ところが、「皮膚はつまむ?それともつままない?」と戸惑ってしまう看護師が続出しています。
というのも、COVID-19ワクチン接種により筋肉注射への関心が高まり、正しい筋肉注射のやり方が議論されて従来の方法が見直されました。
その結果、
皮膚をつまむ⇒刺入部の皮膚はつままずに軽く固定する
と変更されたことで、看護技術本とネットの情報が不一致。
どちらが正しい情報なのか、戸惑うのも当然です。
では、なぜ皮膚をつままなくなったのでしょうか。
この記事では、正しい筋肉注射の方法が知りたい看護師のために、「皮膚をつままなくなった理由」はもちろん、筋肉注射の一連の流れもわかりやすく解説していきます。
図解やイラスト多めなので、サクサク読める内容です。
ちなみに、この記事の信頼度ですが…
看護師歴15年の経験談だけでなく、「看護がみえる②」や日本医師会発表「筋肉注射について」など、複数の参考文献を元に最新情報を書いています。
ぜひ最後まで読んでくださいね。
※COVID-19ワクチン接種の筋注の手技が知りたい方は、以下の記事をチェック↓
/三角筋への新しい筋注のやり方を写真で詳しく解説!\
なぜ筋肉注射は皮膚をつまんだらダメ?
なんで皮膚をつまむがNGになったの?
ズバリ…
皮膚をつまんで筋肉注射すると、筋層まで針が届かなくなるからです。
ここで思い出してほしいのが、筋肉注射の目的。
何だったか覚えていますか?
えーっと…。
(忘れちゃったよ)
筋肉注射の目的は、
毛細血管が豊富な筋層に薬液を入れることです。
皮膚をつまんだ場合、筋層ではなく皮下組織に薬液が入る可能性あります。
これは非常にマズイ状態です。
何がマズイ?筋肉注射と皮下注射の違い
(筋肉注射を皮下注したら何がマズイんだろう…)
筋肉注射の薬液を誤って皮下注射してしまったら、潰瘍や組織障害が起こる可能性があるのです。
なぜだかわかる?
筋肉注射と皮下注射には大きな違いがあったよね?
え…?!
大きな違いって何ですか?
筋肉注射と皮下注射では、使用できる薬剤や量が異なります。
というのも、
筋肉注射は、筋肉組織は血流が豊富なため、薬剤吸収速度は皮下注射よりも早く、多くの量を投与することも可能。
また、皮下注射ができない非水溶性の薬剤や刺激性の強い薬剤、混濁している薬剤を投与することもできるのです。
つまり…
本来は筋肉注射で投与する薬液を皮下注射してしまったら、潰瘍や組織障害が起こる可能性があるってわけ。
非常にマズイですよね。
皮膚をつまんだら本当に届かない?注射針と筋層までの深さを比較
ねぇ、杏ちゃん。
筋肉注射で使用する針って何G(ゲージ)か覚えてる?
えーっと…。
(国試で覚えたはずなのに…)
筋肉注射で使用する針のゲージは21〜23Gです。
筋肉注射の注射針の覚え方は以下のとおり↓
筋肉兄さんを思い出しましょう。
用途別で、一般的に使用する注射針もまとめました。(※参考文献により多少ゲージが異なるため、院内のマニュアルを確認しましょう。)
一般的に筋肉注射は、23Gの注射針を使用します。
あれ…?!
注射針から筋層までの厚さを引いても、2cmも余裕があるよ。
皮膚をつまんでも届きそうだけど…??
筋肉注射の刺入角度
たしかに針の長さと筋層までの厚さからみると、問題なく見えるでしょう。
しかし、実際に筋肉注射する場合、刺入角度によって筋層まで届くか大きく関係します。
筋肉注射の刺入角度は45〜90°で、針は2/3程度刺入します。
筋注の角度は、国試でも必ず出てくるポイント。
先輩ナースにも必ず確認されるので、チェックしておきましょう。
以下のイラストをみてわかるとおり、90°でグサリと刺せば余裕がありますが、45°だと針の長さがカツカツです。
だったら、刺入角度を90°にすれば、皮膚をつまんでもちゃんと筋層まで届くんじゃないの?
「針の長さ」と「筋層までの厚さ」で見ると問題ありませんが、
確実に筋層に薬液を入れるためには筋層の中にしっかり投与することが大事です。
つまり、筋肉注射の目標地点に到達するには、さらに数ミリ針を進めなくてはなりません。
筋肉注射の注射部位は上腕だけでなく、「臀部も」です。
腕よりもおしりのほうがお肉がたっぷりついています。
皮膚をつまんだら筋層まで針が届かなくなる可能性があるので、確実に筋肉注射するなら皮膚はつままずに行いましょう。
皮膚をつままず、伸展させたほうがいい理由
皮膚はつままないほうがいいんだね。
じゃあ、皮膚は伸展させたほうがいいってこと?
殿部のように筋層が厚い部分では皮膚を伸展させたほうが、刺入がスムーズになります。
採血をする際、皮膚を引っ張ったほうが刺しやすいのと同じ。
なるほど!
じゃあ、上腕で筋注するときは伸展させる必要はないんだね。
臀部ほど伸展させる必要はないですが、
疼痛の軽減にもつながるので、皮膚をピンと伸展させて注射することをオススメします。
【筋肉注射のやり方】一連の流れをおさらいしておこう!
筋肉注射のやり方は、次の5ステップ↓
- 注射部位をチェック(部位、皮下脂肪&筋肉の確認)
- 刺入部を消毒する
- 皮膚をつままずに注射針を45〜90℃の角度で針の2/3ほど刺入(約2cm)
- しっかり固定してから薬液を入れる
- 抜針して、軽く揉む(もしくは揉まない)
…で、ここで大事なのは、注射部位。
注射部位を間違えると、神経損傷などのリスクが増大するため、しっかり部位を確認しておきましょう。
筋注の注射部位は2か所
一般的な筋注の注射部位は「上腕部の三角筋」と「臀部の中殿部」の2か所です。
まずは三角筋で筋注する部位は…
上記イラストのように、
注射する際、腰に手をあてると神経に刺すおそれがあります。
コロナワクチンで筋肉注射に注目が集まり、従来のやり方に疑問が出てきました。
まだ古い方法を実施しているようなら、今すぐ手を下ろした状態で穿刺する方法にアップデートしましょう。
神経損傷のリスクを避けるためには、三角筋のど真ん中を狙うことが最大のポイントです。
COVID-19ワクチン接種の筋注手技では、「腰に手をあてる」以外にも「三横指下」では行いません。
詳しくは以下の記事をご覧ください↓
続いて、中殿部への筋肉注射です。
それぞれの詳しい部位について解説していきます。
「クラーク法」と「四分三分法」は、坐骨神経損傷を避けるために有効な部位です。
しかし、上殿神経の損傷も避けることができる「クラーク法」がもっとも神経損傷リスクの少ない部位といえるでしょう。
逆血確認はしなくてもいい?
コロナワクチンを筋肉注射する場合、逆血確認をしません。
というのも、コロナワクチンは振動に弱いとされている「mRNAワクチン」と呼ばれるものを筋注します。
コロナワクチンに限っては逆血確認することによる振動を避けるために、逆血確認をしません。
筋肉注射すべてに逆血確認をしないというのは誤りです。
【動画でチェック!】筋肉注射の一連の流れ
一連の流れは動画でチェックしましょう↓
薬液を入れる前にしびれ感、疼痛、違和感、逆血がないか必ずチェックしよう!
もし逆血があった場合は、筋層には届いていません。
疼痛やしびれ感がある場合は、神経に触れている可能性があるので【神経損傷によるしびれの対処法】を参考に速やかに対処してください。
筋肉注射のコツ&注意点
注射部位の刺入角度ってどうやって決めたらいい?
臀部は90°の角度で注射するにしても、上腕部はどうやって決めたらいいのか悩みますよね。
ここまでお伝えした中に答えはあります。
筋肉注射の目的は何でしたか?
そう、毛細血管が豊富な筋層に薬液を入れることです。
確実に筋注するためにも、まずは「皮下組織」と「筋肉」の厚みをチェックしましょう。
なんで?
厚みって必ずチェックしたほうがいいの?
ベテランの域に達していないなら、必ず確認したほうがいいです。
というのも、太っている、痩せているなど体型で「皮下脂肪」の厚みが異なります。
また、高齢者は、「皮下脂肪」だけでなく「筋肉」も薄くなりがちです。
注射部位を決める前は、厚みチェックは必ず行いましょう。
上腕部の三角筋で筋注する場合、
- 標準体型の人⇒60℃
- 太っている人の場合⇒90℃
というように、体型によって角度を変えるのがオススメです。
ただし、高齢者は臀部で注射したほうが◎。
腕の筋肉はペッラペラな人が多く、筋肉注射には向きません。しっかりと筋肉がある臀部で実施しましょう。
注射後は、軽く揉む!
筋肉注射の後って、揉んでよかったのでしょうか?
筋肉が薬剤に過剰な反応を起こして痛くなったり、筋拘縮を起こさない、薬剤の吸収を高めるために、注射の後は揉んでOKです。
しかし、一昔前のように、しっかり揉む必要はなし。
ただ、反対に揉んだらダメな薬剤もあります。
- アタラックス⇒組織障害を起こす恐れあり
- サンドスタチン⇒吸収を早めたくない
- リスパダールコンスタ⇒臀部筋肉内のみため
- コロナワクチン⇒懸濁液の中の粒子が壊れる
筋注のあとは、軽く揉むでOKです。
筋注が禁忌な人
ドクターも人間。どんなに気をつけていてもミスします。
ドクターの「筋注指示」があるからといって、禁忌な人に注射しないように必ず覚えておきましょう。
より良い看護をするために、主治医が「筋肉注射」を指示した理由を考えよう
医師の指示のもと、看護師は動きます。
カルテに「筋注(im)」と書いてあるからといって筋注をすれば言い訳ではありません。
それでは、ただの御用聞きです。
なぜ主治医は筋注を指示したのか?
その理由を考えて実施することが、よりよい看護をするために必要です。
薬剤の投与方法は、静脈注射(点滴)と皮下注射、筋肉注射、(皮内注射)、(経口投与)あります。
この中からなぜ主治医は筋肉注射を選んだのでしょうか。
筋肉注射の吸収速度と持続時間
筋肉注射は、薬剤の吸収がそこそこ素早く、長く作用する特徴があります。
筋肉注射は、
「静注よりも遅く、皮下注射の2倍のスピード」です。
看護師国家試験の勉強で覚えたと思いますが、
注射方法によって「吸収スピード」が異なります。
もし忘れてしまった方は、以下の語呂合わせで覚えよう。
また、持続時間も異なります。
先ほどの吸収スピードと逆になるので、
効果時間が長いのは皮下注>筋注>静注という順です。
つまり、筋肉注射は、そこそこ素早く、長く作用してほしいときに使用します。
筋肉注射は薬剤の選択肢が広い!
皮下注射ではpHや浸透圧が細胞液と同じで、低刺激の薬液しか投与できません。
しかし、筋肉注射の場合は、混濁液や油性の薬液など、薬液の選択肢がより広いという特徴があります。
また、筋肉注射は、皮下注射に比べて、多くの量を投与することもできます。
皮下注の投与量のMAXは2ml。
一方、筋注は5mlなので、メチコバール2Aの指示があっても一度にまとめて注射も可能です。
「なんでこの薬剤は筋肉注射なのか?」
「なぜ腕ではなく臀部じゃないとダメなのか?」
理由を考えると見えてくるので、看護の幅がグンと広がります。
リスパダールコンスタなどの懸濁薬剤は、上腕ではなく臀部への筋注が主流です。
なぜかというと、懸濁薬剤の副作用である「組織障害を引き起こす可能性を少なくする」ため。
上腕と比べて臀部のほうが筋肉量が多く、位置を少しずつ変えて投与することが可能になります。
リスパダールコンスタは2週間に1回の間隔で筋注するため、もし上腕で実施して組織障害を起こしてしまった場合は、もう片方にしか実施できません。
【まとめ】ベテランでも穿刺が浅くなりやすいので要注意しよう。
以上、「筋肉注射の手技」について紹介しました。
筋肉注射は皮下注射と比べて、局所反応(赤みや腫れ、痛み)が少ないというメリットがあります。
ところが、筋肉注射の薬液を誤って皮下注射してしまったら、潰瘍や組織障害が起こる可能性があるのです。
筋肉注射の目的は、毛細血管が豊富な筋層に薬液を入れること。
ここをしっかり頭に入れておけば、「皮膚をつまんだら筋層まで針が届かない」と分かりますよね。
ただ、皮膚をつままないで筋注しても、グサリと刺すことに対して最初は誰しも躊躇ってしまい、穿刺が浅くなりがち。
慣れてくるまでは、深めに刺すように心がけましょう。
筋肉注射するとき、患者さんに「痛くしないで!」と言わたことありませんか?
筋肉注射は痛いもん…と思っている人は、【筋肉注射が痛くない5つの方法】をチェックしよう。
この記事は「看護がみえる②」を参考に書いています。
採血や注射、輸液、吸引、排泄ケアなど、看護師1年目でマスターしたい看護技術に特化した本です。
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筋肉注射については49〜56ページに掲載。