実は、翼状針と直針の違いってよく知らない
どういうときに翼状針と直針を使い分けたらいいんだろう…
転職したいし、使い分ける基準とかあるなら知っておきたい!
とお困りではないですか?
看護師にとって採血は日常的な業務でよく行うため、使い分けできるようになりたいですよね。
そこでこの記事では、「翼状針と直針の違い」について、健診クリニックで働く現役ナースが解説します。
ちなみに・・・
当ブログ「中堅ナースの日常」で紹介する記事は、正確な情報を届けるをモットーにしているため、参考文献をもとに記載。
参考文献については【こちら】を参照してください。
【ちょっと一休み】
昼休憩中に勉強する看護師さんも多いですが、推しをこっそり見ている人も意外と多いですよね。
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そんなあなたに朗報です。
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【採血針の特徴】翼状針と直針の違いを「形状」で比べる!
まずは、「形状」で2つの針の違いを比べてみましょう。
翼状針と直針の大きな違いは、次の3つ↓
- 針の長さ
- 針先の角度
- チューブの有無
形状の違い①針の長さ
翼状針と直針では、明らかに針の長さが違います。
翼状針<直針です。
わたしが職場で使用してる翼状針(トップ)と直針(テルモ)で長さを比較すると…
- 翼状針(22G)の長さ…19㎜
- 直針(21G)の長さ…38㎜
その差はなんと19㎜で、直針は翼状針の2倍の長さ!
同じ採血用の針と言えど、長さがこんなにも違うと扱い方にも違いが出てきます。
2つの針の使用度に偏りがあると・・・
翼状針一択の看護師さんが、たまに直針を使うと失敗する。
反対に、直針に慣れた看護師さんは、翼状針で失敗しやすくなります。
採血の成功率に関係するため、両方の針にまんべんなく慣れておくことはとても大事です。
また、皮下脂肪多めの患者さんを採血するときに、針の長さが影響します。
採血の穿刺で一番多いのが、「肘正中皮静脈」ですよね。(⇒「そうなの?」って人は採血マニュアルをチェックしよう。)
一般的な皮下脂肪の厚さは10㎜と言われていますが、皮下脂肪多めの人はそれ以上のことも。(引用:日本医事新報社)
先ほど紹介した翼状針の長さは19mmでしたよね。
分厚い皮下脂肪の奥に血管がある場合、翼状針では届かないこともあるのです。
「あとちょっとなのに、針が…」となったこと何度、看護師なら1度はあるはず。
形状の違い②針先の角度
たぶん普段、針先をじーっと見ることはないと思いますが、
じっくり見比べると翼状針と直針の針先の形状が異なります。
こんな感じに↓
左が翼状針の針先、右が直針の針先です。
翼状針の針先の切り込みは浅く、直針は鋭い切込みとなっています。
翼状針の針先の角度は浅いので、あやまって血管を貫通することは少なく、神経損傷のリスクを軽減。
一方、直針は、一定の穿刺角度を有しており、その角度で穿刺すると血管内血液量が最大になるので、スピーディーに採血することができます。
形状の違い③チューブの有無
最後は、チューブの有無です。
上記写真をみてわかるとおり、
翼状針にはチューブがありますが、直針にはありません。
このチューブの長さは約30cm。
翼状針で採血した場合、チューブ分の余分な血液量を採るためもったいないと思う反面、逆血確認もできる利点もあります。
というのも、
直針の場合、チューブがないので直接ホルダーと接続。
つまり、スピッツを入れるまで血管に入った確認はできません。
採血になれた看護師であれば、血管に入った感触でわかりますが、慣れていない新人看護師さんなんかは苦戦するかもしれませんね。
翼状針と直針の「メリット・デメリット」で比較
続いては、翼状針と直針のメリット・デメリットについて解説していきます。
この記事を読んだあなたが、実際に使うか判断するポイントとなるはず。
めちゃくちゃ大事なポイントですので、
分かりやすくするために7つの項目で徹底的に比較しました↓
翼状針 | 直針 | |
採血成功率 | 高い | 低い |
患者の不快度 | 低い | 高い |
穿刺部位 | 手背、前腕、下肢 (どこでもOK) | 太くてまっすぐな血管 |
神経損傷のリスク | 低い | 高い |
針刺し事故のリスク | 低い | 高い |
溶血発生率 | 低い | 高い |
コスト | 高い | 低い |
あれ…?
凝固・赤沈スピッツの1本目、翼状針なら不可だけど直針ならOKなのでは…?と疑問に思った方は、【こちら】の記事でダメな理由を書いています。
夜勤で一番忙しい時間帯に「取り直し」とならないためにもチェックしておこう!
採血成功率
採血成功率は、直針と比べて翼状針のほうが高いです。
その理由は、ずばり…翼状針のほうが失敗が少ない「形状」となっています。
翼状針と直針の「形状の違い」は覚えていますか?
忘れてしまった人のためにもう1度いいますが、
- 針の長さ
- 針先の角度
- チューブの有無
この3つです。
まず「扱いやすいかどうか」は長さに関係します。
直針は翼状針の2倍の長さ。
使ったことないかもしれませんが、
高枝切り枝ハサミよりも、普通のハサミのほうが狙ったところを切りやすいですよね。
というのも、
自分に近いほうが操作しやすいため、直針よりも翼状針のほうが狙った血管を穿刺しやすくなるってワケです。
…で、次に「うっかりミス」を予防できるかどうか。
採血の失敗で多いのが、「血管を突き破る」です。
この失敗に大きく関係するのが、「針先の角度」と「チューブの有無」。
当然のことながら、
針先が鋭角のほうが突き破る可能性が高くなりますよね。
翼状針と直針の針先の角度はこんなにも違います↓
針先の角度の切り込みが鋭く穿刺が容易にできる反面、血管を突き破る可能性が高くなってしまうのです。
さらに、この角度がスピッツ交換時にも影響します。
直針は、チューブがなく採血管ホルダーと直接つなぐので、スピッツ交換時に振動が針先に響き、動く原因となるのです。
針先が動いた場合、鋭角なので血管を突き破ってしまうこともあります。
針の形状上、「翼状針」が圧倒的に失敗が少ない構造ってこと!
患者の不快度
患者さんの不快度も、翼状針のほうが低くなります。
先ほどもいいましたが、スピッツ交換時に響かないというのが大きいでしょう。
翼状針は、チューブを通して採血管ホルダーと接続するので、スピッツの入れ替えの振動が響きません。
また、翼状針のはねを広げてしっかり固定すれば、途中で針先がズレることもありません。
穿刺部位
翼状針は、針が短く、扱いやすいので、手背・前腕・下肢どの部位でも穿刺可能です。
一方、直針は、針が長いため、穿刺部位が限られます。
太くてまっすぐな血管かつ固定しやすい部位が条件になるため、使用頻度は少なめです。
神経損傷のリスク
近年、採血時に「翼状針」使う病院が増えています。
病院のホームページで「翼状針を使用するのでご安心ください」という一文をよくみるようになりました。
というのも、
【採血に伴う合併症頻度】についての報告書をみて分かるとおり、直針よりも翼状針のほうが神経損傷のリスクを抑えられるからです。
以前の記事「看護師が神経損傷で訴えられないために…」でもいいましたが、太い血管の近くには神経が並行しています。
採血の失敗で多いのは、血管を突き破ってしまうこと。
つまり、深く刺してしまうと針先が神経に当たってしまう可能性があるのです。
針刺し事故のリスク
針刺し事故のリスクからみても、翼状針のほうが安全です。
採血する場合、針捨てBOXを持っていきますが、直針だとBOXに入れるまでに刺すリスクがあります
うっかり刺してしまうんじゃないかとヒヤヒヤしながら入れる人も多いのではないでしょうか。
一方、翼状針は「誤穿刺防止機構付(以下参照)」なので、抜針後すぐに針を収納することが可能です。
引用:JMS
安全装置の種類は、グリップをつまんで後ろにスライドさせるタイプ、カバーをつけるのなどがあります。
これらの翼状針なら、万が一針捨てBOXがなくても針刺しのリスクはありません。
溶血発生率
溶血の発生率に関しても、直針と比較して翼状針のほうが発生率が低くなると報告されています。(※参考文献)
ちなみに…
溶血とは、何らかの原因で血液中の赤血球が破裂し、ヘモグロビンと血漿が混ざってしまった状態です。
正しく検査ができなくなるため、溶血を起こさないように採血する必要があります。
コスト
翼状針と直針のコスト面の差は、
- 翼状針(1箱 50本入)…4000〜5000円
- 直針(1箱 50本入)…2000円前後
約2倍以上違います。
「雇われの身だし…」「経営者じゃないもん!」と思うかもしれませんが、そんなことはありません。
採血は看護師にとって日常的な業務なので、頻度は高いですよね。
つまり、コストは売上に影響するため、コストが増えれば当然ボーナスや給料が減ってしまうのです。
太くてまっすぐな血管にあえて翼状針を使う必要なんてないですよね。
それぞれの特徴・メリット&デメリットを知った上で使い分ける
ここまで読むと…
「翼状針一択やん!」と思った人も多いでしょう。
ところが、そうともいい切れません。
ある条件にピシャリと当てはまる患者さんの場合、翼状針よりも直針のほうがスピーディに採血できます。
月曜日の夜勤(大量の採血オーダー)や検診 で役立つでしょう。
その条件とは、
- 弾力があってまっすぐで太い「肘正中皮静脈」
- できるだけ表在性
です。
肘正中皮静脈は、肘のちょうど真ん中あたり。
「尺側皮静脈」「橈側皮静脈」よりも固定しやすい上に、
スピッツ交換時の振動、スピッツをぐぐっと入れる際に針先が動くことを抑えられます。
それに、神経損傷が一番起こりにくい穿刺部位です。
とはいえ、全くないとは言い切れないため、慎重に行いましょう。
あらためて「動画」で採血手技の確認!
翼状針と直針の特徴、メリット&デメリットを知った上で、改めて採血手技を振り返ってみましょう。
といっても、
翼状針を使っても直針でも、「採血のやり方」はほぼ同じ。
- 指示確認後、必要物品の準備
- 本人確認
- 穿刺部位の決定
- 穿刺予定部位より7〜10cm中枢側に駆血帯を巻く
- 穿刺部位の中心から円を描くように消毒し、穿刺
- シリンジを引くorスピッツを入れる
- 握ってもらっていた手を開いてから駆血帯を外す
- 抜針して止血処置
- (シリンジ採血時のみ)スピッツに分注する
【動画】でチェック!翼状針の採血手順&コツ
翼状針は、針先の切り込みが浅いので、血管を貫通することは少なく、神経損傷の軽減にもなります。
また、逆血の確認も可能なため、採血に慣れていない新人看護師さんにもオススメです。
【動画】でチェック!直針の採血手順&コツ
直針で採血する場合、固定が不安定になります。
しっかり固定できるスペースがある「肘正中皮静脈」がオススメ。
ただし、針先が鋭角のため、スピッツを交換する衝撃で血管を貫通することがあります。
スピッツ交換時は、ゆっくり行いましょう。
【まとめ】翼状針と直針の違い
以上、「翼状針と直針の違い」について紹介しました。
新人看護師さんやブランクがある看護師さん、採血な苦手な看護師さんは、直針よりも翼状針のほうが扱いやすいでしょう。
ただ、コストに関しては、断然「直針」が安いです。
単価を下げたほうが病院の売上がアップすれば、ボーナスもアップします。
ボーナスでガッカリしたくないなら、極力「直針」を使ったほうがいいかもしれませんね。
また、病院によっては、「点滴以外は直針で!」という場合もあります。
今の病院では翼状針が使い放題でも転職と同時に使えなくなる可能性もあると考えておいたほうが無難です。
「直針」はデメリットばかりに見えますが、翼状針よりも採血スピードが速くなるのでおすすめ。
実際に測定したわけではないですが、最大30秒くらい採血終了に差があります。
というのも、
わたしは今健診クリニックで働いていて、実は直針派。
1日20名ほど採血するんですが、そのうち半分くらいは直針を使っています。
…で、隣スペースで同僚が先に翼状針で採血していても、後からの直針のわたしが先に終わることが多いのです。
ただ、この太さは微妙かも…というときは、スピードダウン。
「弾力があってまっすぐで太い+表在性」の血管であれば、効率よく採血できるのでオススメです。
今回紹介したことをしっかり頭に入れて、直針と翼状針の使い分けができる素敵な看護師さんになって下さいね。
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